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まなぶ

第5回 こころの診療所 何かを伝えるときに大切だと思うこと

静かなコミュニケーションについて

子どもが不登校やひきこもりになってしまったとき、周囲から「あせらずにゆっくりと接していくといい」とアドバイスされることもあります。

しかし、そうはいってもそのような子どもたちとのコミュニケーションの取り方が分からなくなって不安になってあせってしまい、急かすような言葉をかけてしまうことも多いのではないでしょうか。

そこで、しろひげ・たゆらかファンド理事長・しろひげ在宅診療所院長の山中光茂先生に「何かを伝えるときに大切だと思うこと」のコラムを寄稿してもらいました。

訪問診療での診察のときに気持ちに障がいがあるいろんな心の変化に寄り添うとき、私はいつも「あせらずゆっくりと」と自分に言い聞かせています。不登校に苦しんでいる子どもも長期間ひきこもりを強いられている人も、周りの正論や励まし、ちょっとした言葉に敏感で、傷つきやすく、そしてとても繊細です。だからこそ、「正しく伝える」よりまずは「一緒にいる」ことを大切にしたいと感じています。

不登校やひきこもりのみなさんと接していると、こちらが何を言うかよりも、「どんな空気でそこにいるか」の方がはるかに大切だと思うようになりました。

沈黙が続く日、ドア越しの会話しかしない日、目を合わせてもらえない日。そんな日でも、その沈黙や態度の裏側には、必ず何かを守ろうとしているこころがあります。だから私は、沈黙を「拒絶」と受け取らず、「必死に生きている証」と受け止めたいと思っています。

思い出す子がいます。最初はまったく声が出ず、布団から動けず、家族とも話せない状態でした。診察らしい診察はできず、ただ同じ部屋で静かに過ごすだけの日もありました。

帰りの車の中で「これで良かったのかな」「自分が診察する意味があるんだろうか」と自問しながらも、それでも家族が求め続けてくれたので通い続けました。ある日、その子が小さな声で「先生さ、今日ちょっとだけ話したい」と言ってくれたとき、胸の奥が熱くなりました。大きな変化とは言えないのかもしれない。でも、そのひと言は、確かな勇気であり、確かな前進でした。

外出ができない人、言葉がうまく出せない人、人と関わりたくない人の多くは必ずしも「変わりたい」と思っていないわけではありません。動けない自分に悩んでいて、責めていて、苦しんでいる人も少なくありません。だから、周りが焦って方向を示すほど、苦しくなることがある。

私はいつも心の中で問いかけます。「この言葉は、相手にとってどのように伝わるだろうか?」伝えるとは、変えようとすることではなく、「変わらなくても見捨てない」「どんな状態でも寄り添うよ」という姿勢を示し続けることだと感じています。

しんどい日があっていい。泣いていい。前に進めなくてもいい。

でも、時には頑張って前に進んでもいい。「そのままのあなたと一緒にいるよ」という気持ちが届いたとき、その人は自分のペースで動き出す力を取り戻します。言葉が今日届かなくてもいい。

届く日を信じて、私は何度でも玄関のチャイムを押し、私なりに精一杯寄り添っていこうという覚悟を持っています。

伝え方に関するおすすめ作品

『路傍のフジイ』
小学館
鍋倉夫(著)

頑張れなくてもいい、変わらなくてもいい。フジイはただそこにいるだけで素敵に自然に生きている。うまく話せない日も、動けない日も、そのままでいていいんだ、そう静かに背中を支えてくれる、優しい漫画です。

編集後記
「伝える」というと言葉を尽くして話しかける、というようなイメージがある方も多いかと思いますが、山中先生のような「どんな状態でも寄り添う」という姿勢を見せるだけというコミュニケーション方法もあるのだと感じました。

できるできないは一度置いておいて、「寄り添う」という気持ちを大事にして子どもたちを見守っていきたいですね。

山中 光茂

山中 光茂

医療法人社団しろひげファミリー しろひげ在宅診療所 理事長・院長
群馬大学医学部卒業。医師免許取得後、ケニアの離島でのエイズ対策プロジェクトや三重県松阪市長を経験した後、2018年に「しろひげ在宅診療所」を開設。自身の学生時代の経験から、精神疾患やひきこもり状態にいる人をはじめとし、こころに障がいがある人の支援に力を入れており、2023年にはひきこもり支援事業を中心に地域に対して幅広い社会貢献活動を行う「しろひげ・べーす」を開設。子どもたちに命の大切さを考えてもらうための出前授業や、保護者に向けた子どものこころへの寄り添い方の公開講座など、各地の小学校で多くの講演も行う。

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