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まなぶ

不登校という名の「人生の溜め」について

1月から2月初めにかけての大雪が嘘のように、この三連休は場所によっては夏日を超える暑さになりました。
最近の天気は容赦がないというか、もはや訳が分かりません。
本日は2月末とは思えない嵐のような大雨です。こうした天候に翻弄され体調を崩している方も多いのではないでしょうか。

それでも、行ったり来たりを繰り返しながら、季節が進んでいるのは間違いありません。
私自身、年々ひどくなる花粉症に「ああ、春なんだな」と実感させられています。春というものの質感が変わっている気もしますが、春は春です。

春といえば「始まり」の季節ですが、私が一番印象に残っているのは、中学1年生から2年生にかけての春休みのことです。実は当時の私は、中学1年生の終わり頃からなかなか学校へ行けなくなっていました。

今振り返れば、どんどん聴力が落ちてきて勉強についていくのが難しくなっていた時期でした。勉強にも部活にも意欲が持てず、八方塞がりの状態で今でいう「不登校」になっていたのだと思います。

もちろん親も心配しましたし、自分自身も苦しい。学校に行かなきゃと思っているのに足がすくんで動けない。
そんな日々の中で自分にできることといえば、本を読んだり当時流行っていたゲームに興じたりすることくらいでした。

「本当は何かをしなければいけないのに何もできない」という状況は今思い返してもつらいものです。
というより、今になって「ああ、自分はあの頃から不登校だったのか」と改めて気づかされる思いです。

不登校の子にとって、長期休暇は大きな救いです。自分だけでなく周りも休んでいるから、気兼ねなく息をつける。

私も春休みに入って、少しホッとしたのを覚えています。
その中で、「また学校に戻れるだろうか」と不安を抱えていた時、親の仲人をしてくださったKさんと会う機会がありました。

Kさんは会社を経営されていましたが、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症して、当時は目と指が少し動くかどうかというところまで病気が進行していました。

母が介護の手伝いに通っていた縁で、ある日私も母についていったのです。

その際、私の事情を聞いたKさんは、後日、母にこう伝えてくれました。

「木村君は、ろう学校に行った方がいいんじゃないか」

当時は現在よりもろう学校や養護学校(特別支援学校)に対する偏見や差別が根強く、その存在すら知らない人も多い時代でした。

しかしKさんは、ALS当事者として不自由な身体で全国を駆け回り、啓発活動を続けていた方です。様々な境遇の人を見てきたKさんだからこそ、私の状態を見て思うところがあったのでしょう。

かつて小学生の頃に見学へ行った際は、そこへ進学するつもりなど全くありませんでした。

しかし、その一言をきっかけに再び見学へ行き、4月から体験入学を受けることになりました。

そしてそのまま、どういうわけか、ろう学校へ転校することになったのです。

正直、このあたりの経緯は詳しく覚えていません。Kさんの一言、春という季節の空気、そして「普通の学校にいるのはもう限界だ」という感覚が、重なり合ったのかもしれません。

この決断が私の人生をガラリと変えることになったのですが、その詳細はまた別の機会に。

ただ、こうした経験を経て思うことがあります。
「もしあの時、不登校にならずに無理をして中学3年生まで通い続けていたら、どうなっていただろうか」と。

もし無理をして耐え忍んでいたら、人生はもっと過酷なものになっていたでしょうし、今の命を保てていたかさえ分かりません。

不登校を経てろう学校へ行ったことで多くの友人ができ、自分がどう生きていけばいいかという道筋も見えました。そう考えると、あの「立ち止まり」がなければ今の自分はいないのだと、不思議な縁を感じます。

今回のコラムで何が言いたいかといえば、不登校というのは単なる「停滞」ではなく人生における大きな「溜め」なのだということです。そこには人生を変えるための鍵が隠されている可能性があります。

不登校になるということはそれまでの生き方の何かが今の自分とズレていたということであり、そのズレをどう正せばいいかを考える「転換点」なのだと思います。

ですから、必ずしも「元の学校に戻ること」だけが正解ではありません。そこから全く別の道へ進むという選択肢を考えてもいい。不登校という時間にはそうした「きっかけ」が含まれているのだと私は信じています。

もちろん、その「鍵」がすぐに見つかるとは限りません。何十年も経ってから「あの不登校が鍵だった」と気づくこともあるでしょう。ただ、人生は長いのです。不登校になるくらいの時期があってもいい、と思えた方が少しは楽になれるはずです。

変化の季節である春。不登校やひきこもりといった状況も何かが変わる兆しだと捉えて、この季節を眺めてみてはいかがでしょうか。

ところで、先月発行した「たゆらかたうん Vol.7」は不登校特集です。江戸川区を中心にあちこちで配布しておりますので、見かけたらぜひ手にお取りください。

では、今回はこれくらいで。

▼不登校・いきしぶりの子どもの傍に立つ、保護者の気持ち

▼不登校に向き合う教育現場

きむら

きむら

聴覚障がいとADHDの特性を持つしろひげ在宅診療所スタッフ。山形県出身。ASDと軽度知的障がいのある妻と江戸川区で二人暮らし。ろう学校を卒業したあとさまざまな職を転々しつつ独自のADHDライフハックを研究している。くらげというペンネームでライター活動などを行っており著書に「ボクの彼女は発達障害」がある。

【NPO法人 しろひげ・たゆらかファンド】
「たゆらかたうん」を制作・発行している「NPO法人しろひげ・たゆらかファンド」では、「たのしく”学ぶこと”でつながる」を始め、「食べること」「体験すること」を通じたさまざまな居場所づくりもしています。
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