こんにちは。たゆらかたうん編集部です。
今回は、しろひげ在宅診療所院長の山中光茂医師によるコラム「第7回 こころの診療所」をお届けします。日々、ひきこもりや不登校の方々と向き合う中で見えてきた、「はたらく」ということの本当の意味について、温かく力強いメッセージが綴られています。ぜひ、ゆっくりとご覧ください。
第7回 こころの診療所:「はたらく」ということ
日々、ひきこもりや不登校の方々への訪問診療や居場所づくりに関わっていると、「働くことが怖いです」「人と会いたくないです」という言葉を、よく耳にします。朝起きられない。人と話すのが苦しい。学校や職場で傷ついた経験がある。頑張ろうとしても、身体や心が動かない。そんな状態の中で、周りから安易に「働かなきゃ」「社会に出なきゃ」と言われ続けることは、とても苦しいことです。
だから私は、まず最初に、「頑張れないときがあってもいい」と伝えます。人は、ずっと前を向き続けられるわけではありません。立ち止まる時期もあります。布団から出られない日もあります。誰にも会いたくない日もあります。それでも、その人の価値がなくなるわけではありません。ただ、その一方で、少し頑張って「役割」を持つことも、とても大切だと思っています。ここで言う役割は、立派な仕事や、大きな成果のことではありません。朝、決まった時間に起きてみる。家族に「おはよう」と言う。居場所でお茶を入れてみる。週に1回だけでも外に出れる。誰かの話を少し聞いてみる。そんな小さなことでも、人は「自分がここにいていい」と感じられる瞬間があります。
「働く」という言葉を聞くと、多くの人が、「フルタイムで働く」「社会で成功する」「人より頑張る」というイメージを持ちます。でも、本当はもっと小さくていいのです。今の自分にできることを、少しだけやってみる。昨日より半歩だけ前に出てみる。それも、十分に「はたらく」ということなのだと思います。
【ここにサブ画像(居場所の様子など)を挿入してください】
しろひげたゆらかファンドの活動の中でも、最初は人と話せなかった人が、少しずつ居場所に来るようになり、「今日は椅子を並べてみようかな」と言ってくれることがあります。その姿を見るたびに、人は「役に立ちたい」という気持ちを、本来みんな持っているのだと感じます。
「頑張らなくていい」という言葉は、決して「何もしなくていい」という意味ではありません。無理をしなくていい。人と比べなくていい。大きく変わらなくていい。でも、ほんの少しだけ、自分のペースで前に進んでみる。その小さな一歩が、未来の安心につながっていくことがあります。
立ち止まっている時、人は「このままずっと変われないのではないか」と不安になります。けれど人生は、不思議なくらい、ゆっくり変わっていくことがあります。今日、コンビニまで行けた。今日は少し笑えた。今日は誰かと話せた。そんな小さな変化が、いつの間にか、その人自身の「生きる力」になっていきます。
「頑張りすぎなくていい。でも、少し頑張ってみてもいい」と伝えたいのです。誰かの期待に応えるためではなく、誰かと競争するためでもなく、自分自身が、少しだけ安心して生きていくために。
「はたらく」ということは、お金を稼ぐことだけではなく、誰かとつながりながら、「自分がここにいてもいい」と感じていく営みなのかもしれません。
おすすめ作品 3選
「よつばと!」 あずまきよひこ / KADOKAWA

特別な出来事はなくても、今日を生きることの楽しさを思い出させてくれる漫画です。空を見上げること、散歩をすること、誰かと笑うこと。疲れた心に、「急がなくていいよ」と優しく声をかけてくれるような作品です。
「聲の形」 大今良時 / 講談社

人を傷つけてしまったこと。傷ついて、人と関わるのが怖くなったこと。そんな“心の痛み”に静かに寄り添ってくれる作品です。「もう一度、人とつながってみてもいいかもしれない」そんな小さな希望を、優しく手渡してくれます。
「ふたつのスピカ」 柳沼行 / KADOKAWA

大切な人を失った悲しみや、孤独を抱えながらも、人との出会いの中で少しずつ成長していく物語です。派手さはありませんが、とても静かで優しい空気が流れています。“ひとりじゃない”という感覚を、そっと思い出させてくれる作品です。
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「たゆらかたうん」を制作・発行している「NPO法人しろひげ・たゆらかファンド」では、「たのしく”学ぶこと”でつながる」を始め、「食べること」「体験すること」を通じたさまざまな居場所づくりもしています。
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