-障がい者雇用の現状はどうですか?
雇用されている人数は身体障がいのある方が一番多いです。ただ、ハローワークの職業紹介件数は2023年と10年前の2013年を比べると、精神障がいのある方のマッチング件数が増えています。構成比でみると2013年は精神障がいのある方の職業紹介件数全体に占める割合は37.8%でしたが、2023年には54.7%と5割を超えています。2026年7月1日から企業の障害者法定雇用率が2.7%になるので、企業の採用意欲は高まっていますね。一方、精神障がいや発達障がいのある方は、職場での定着率が低い傾向にあることが指摘されています。
-定着率の低さの原因は、雰囲気が合わないことや合理的配慮の不一致ですか?
企業の方が一番多く言うのは「障がい特性による不安定さ」です。ご本人の障がい特性に原因を求めがちですが、障がい特性があるから障害者雇用を選択されているわけで、障がい特性により生じる波を埋めていく配慮が必要ですよね。ですので、ご本人をとりまく環境面をどのように調整していくのかが大切になりますね。
-手帳を取得して働く意味はそういったところにありますよね。障がいがある方の課題はどうですか?
障害者雇用促進法には「障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで能力の開発や向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない」と書いてあります。これは障害者雇用促進法だけでなく高齢者雇用促進法や若者雇用促進法でも謳われています。こうしたマインドを持っていないと職場でうまくいかないんですよね。まずは、賃金をもらって働くことの意味づけを分かっていただくことが大切だと思っています。授業料を支払って教育サービスを受ける立場である学生と同じ気持ちだとご本人が辛い思いをします。もちろん、仕事能力も大事だと思いますが、それよりも挨拶ができたり、お礼が言えたり、自分を省みて悪かったと反省したり、素直に謝れたり…仕事を教わるためには素直じゃないといけませんよね。
また、私はよく「逆の立場で考えてみて」と話します。例えば、5人でお店を回すとなったとき、みんな同じ時給で働いているのに、一人だけすぐに休憩や早退をしたらどう思いますか?「5人でギリギリのお店だけど、4人で頑張ろうね」って、最初はいいけど、続きますか?自分ならできますか?と、自分だったらその状況をどう思うか、考えていただいています。実際に障がい者雇用では、例えば「疲れやすい」という特性に対して、他の人より頻回な休憩を認める、急な体調の変化に応じてシフトを配慮する、といった合理的配慮がなされるケースがあります。ただそれは配慮をすれば他の人と一緒に働けることが期待されているから、ということを忘れないようにしたいですね。
-社会で働く人全員に必要なマインドセットですね。では今後、障がい者枠の雇用はどうなると予測されますか?
2026年7月から障がい者の法定雇用率が2.7%になります。最初に身体障がいのある方の雇用数が一番多いと話しましたが、身体障がいのある方の80%は60歳以上です。企業で職業訓練を行って活躍していただく期間が長い18歳~30歳代の人数は少ないですし、すでに雇用されている方が多いので、身体障がいのある方の新規採用はとても難しくなっています。なので、発達障がいや精神障がいのある方の雇用のチャンスが広がっていきます。
-雇用のチャンスが広がるのは、うれしいことですよね。逆に、懸念点などは?
新型コロナによって、テレワークといった新たな働き方も普及しましたがメリットだけでなくコミュニケーション不全や能力開発の難しさ、人と人とのつながりの希薄化などデメリットも指摘されています。一方でテレワークを希望する労働者(障がいのある方だけでなく)は多く、テレワークもできる求人は競争率が高く狭き門となっています。医療的ケアが必要な方にとって在宅勤務ができることは重要な環境調整です。テレワークのデメリットをできるだけ少なくする工夫がなされて、求人が増えると良いですね。障がいのある求職者の方もテレワークのメリットばかりに注目するのではなく、メリットとデメリットの両方を見ることと、向き不向きもあるようですから、支援者や信頼できる方と相談してみる、企業でのインターンシップを通じて、自分はどのような働き方が合っているのか、見極めることも大切となってきていると思います。
今後急速に、定型的な事務職やこれまで人が行ってきた仕事がAIによって代替されると予想されています。社会経済が大きく変化する中でも誰もが「働く」ことについて考える時代になると思います。障がいのある方の「働く」ことについても障がいのある方とともに衆知を集めて検討していく必要があると思っています。
-では、企業側が障害者雇用を進めていくうえで大切なことは?
すでに障害者雇用を進めている企業の方々にとっては当たり前かもしれないですけど、「人は必ず成長する」ということ。「その人の可能性を信じて一緒に働く」ということですよね。時間は少しかかるかもしれないですが、今はできないことでも、できるようになる、ということですね。だから戦力になるような雇用をしていく。そのためには、支援機関と連携し、インターンシップを通じて、仕事と環境にマッチするように、しっかりと調整をして採用へとつなげることが大切ですね。戦力になっているというのはその人に居場所があること。その組織の中でその人の役割があるってことですよね。そのようにすればモチベーションも上がり定着率も高い職場となると思います。
-最後に、働きたいと思っている方(たゆらかたうん読者)へ一言お願いしたいです!
目標は小さく生んで少しずつ大きく育てたいですね。