たゆらかたうん創刊号のゲストはケースワーカーとして福祉の現場に携わっていた経験を持つ江戸川区の斉藤猛区長をお招きし、こころに障がいがある方を支える取り組みなどインタビューにお応えしていただきました!
話してくれた人
斉藤 猛
江戸川区長
生年月日
昭和38年3月30日
学歴
早稲田大学社会科学部卒業
職歴
1982年(昭和57年)江戸川区入区
2007年(平成19年)医療保険課長
2011年(平成23年)財政課長
2014年(平成26年)福祉部長
2018年(平成30年)江戸川区教育長
2019年(平成31年)江戸川区長
石川 玲子
江戸川区駄菓子屋居場所 よりみち屋店長
医療法人社団しろひげファミリー
社会貢献部 部長
山中 光茂
医療法人社団しろひげファミリー
しろひげ在宅診療所
院長
笑顔だけじゃなく、自然体で喜怒哀楽を出せるまち
お話する前に・・ひとつ教えて頂きたいのですが、今回発行される情報誌の『たゆらか』という言葉を初めて聞くのですが、どのような意味があるのですか?
実は『たゆらか』という言葉には揺れ動いて定まらないという意味があるんです。
こころに障がいがある方に限らず、気持ちが揺れ動くことに戸惑うことが沢山あると思います。
でも、そんな浮き沈みの気持ちは誰しもが持っていて、むしろ揺れ動くこころを寛容な気持ちで受け止め合う、定まらなくて良いんだよという想いを込めてネーミングしました。
なるほど!良い響きの素晴らしい言葉ですね。実は、江戸川区も笑顔があふれるまちじゃなく、喜怒哀楽を出せる自然体なまちにしたいと思っているんです。毎日笑顔だけでは疲れてしまいますからね。一緒に取り組んでいるよりみち屋は、石川店長はじめスタッフの皆さんのおかげで、笑顔を中心に自然体で過ごせる居場所になっていますね。
おかげさまでこの1年で100名以上の方が利用して下さっていて、こころに障がいがある方や、ひきこもりの状態にある方の居場所として認知されるようになっていると実感しています。就労体験を通じて、実際に就労につながった方もいらっしゃいます。実はこの対談の前に、よりみち屋の就労体験をされて江戸川区役所に就職された方と偶然再会をして・・実際に働く姿を見てうれしくなりました。
こころの中で車いすに乗っている方を助けたい
斉藤区長が就任されてから、こころに障がいがある方の痛みに寄り添った政策が多いなと感じます。
そう言っていただけると嬉しいです。私が区長に就任した際に江戸川区の全35万世帯、できる限り世帯状況を把握したいと思い、それならシンプルにアンケートを取ろう!と全世帯の中で行政に関わっていない約18万世帯の方にひきこもり実態調査を行いました。
18万世帯の調査をされたとはすごいですね。
アンケートに答えて頂いた方はもちろんですが、実は深いリスクを抱えている方ほど返信がなく声を挙げられないご家庭だと私は思っているんですよね。
この調査をしようと思われたのは、区長自身のケースワーカーの現場でのご経験が影響されていますか?
そうですね。20代の頃、ケースワーカーとして江戸川区の福祉事務所に勤務していました。まだ都営新宿線もなかった頃でしたので、自転車で色々な環境のご家庭を訪問していました。行政として把握しているハイリスクの方々や障がいのある方々のご家庭が多く、色々な現実に直面しました。
様々な課題のある家庭を中心に訪問されていたということですね。
そうなんです。ある時に厚生労働省の調査で、江戸川区の全地域を全軒訪問するという宿題を出されました。地元の行政として既に色々なデータもあり、改めて調査をすることには半信半疑でしたけれど。
実際に訪問されていかがでしたか?
いざ訪問してみると、精神疾患や認知症、不登校など家族全体で複雑な課題を抱えているにも関わらず、データには出てこない深い課題を抱えたご家庭の存在や、その数の多さに衝撃を受けました。結局、我々が把握しているのはほんの一部だと自分の目で見て感じ、その時の経験が原点になっていると思います。
区長がおっしゃるように、よりみち屋を利用されている方も、やはり家庭状況などの悩みを抱えた方が多く、私たちの想像以上にこの江戸川区でもひきこもりの状態にある方が沢山いらっしゃると感じます。
山中
実際にしろひげ在宅診療所でも、全患者様の2割以上の方が精神疾患を抱えているという現実があります。
私はひきこもりの状態にある方は、こころの中で車いすに乗っていると思っているんです。目に見えない苦しみや痛みを抱えて背負って生きていらっしゃるので。地域の方のネットワークにも助けていただきながら、居場所や就労の場所を提供したり、少しでも支えになればと思っています。
日本全国で働きづらさを抱える多様な人々
非就労障がい者
356万人
ニート
145万人
難病患者
60万人
ひきこもり
54万人
貧困母子世帯
49万世帯
がん患者
48万人
※日本財団「WORK! DIVERSITY」からデータ引用 (https://work-diversity.com/)
ビールの力を就労困難者の支えに
今後、江戸川区として就労困難者のための働き場所として、ビア事業に取り組まれるようですね。
水やお茶と並んでビールは代表的な飲料です。醸造所やビアホールなどの拠点を整備し、醸造や販売に携わってもらうなど、そこで就労困難者に働く機会が提供できると思っていまして。販売も検討しているので、私自身は消費の面でしっかりと貢献できるかと(笑)
区長は、お酒がお好きなんですね(笑)
就労の場を江戸川区が積極的に提供して頂けるのは、就労困難者のこころの支えになると思います。
よりみち屋はひきこもりの状態にある方が就労体験できる場所ですが、居場所としての小さな共生社会があります。
障がいがある方、高齢者、地域の子供たちが、分け隔てなくお互いを理解しながら関わり合っています。その環境が新鮮で楽しいという声が多く、これからも江戸川区をそんなまちにしていけたらいいなと思います。
会議室で話しているだけでは、実際の問題やこころの痛みってわからないんですよね。
石川店長はじめ、現場の方の声を一緒に形にしながら、こころに障がいがある方やひきこもりの状態にある方やそのご家族が自然体で生活できる、江戸川区をそんなまちにしたいと思っています。
ケースワーカーだったご経験を活かし、江戸川区でこころに障がいがある方やひきこもりの状態にある方に向けて先進的でありながら、痛みに寄り添った取り組みを提案されている斉藤区長。これからもよりみち屋を通して江戸川区と共に当事者の支えとなるような居場所づくりをしていきたいと思います。
江戸川区 ひきこもり相談窓口
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TEL: 03-6657-4688